日本縦断ツアーの報告書です。
    今回は、九州編、7月30日の報告です!






□7月30日;「深森の雨は幽霊を呼ぶ!?」

<走行記録>
天気;雨、夕方から曇り
距離とアップ;135.30km、600up
最高時速;49.0km/h.
平均時速;20.5km/h.
ルート ;延岡〜宗太郎〜直川〜弥生〜大分〜別府
宿泊  ;別府ユース ペアレントさんが旅好きのライダー。国際色豊か。
入浴  ;別府ユース 温泉。

<道路情報>

・ 国道10 延岡〜北川 道の駅の前のアップ以外は基本的にフラット。
・ 国道10 北川〜弥生 深い山の中。車も少ない。アップダウン、思ったよりはない。
・ 国道10 弥生〜大分 中の谷峠のトンネルに歩道は無い。大分ちょっと前までの道路はすごく走りやすい。
・ 国道10 大分〜別府 水族館まで海側の道すごく走りやすい。

<報告書>

おばけが怖い。
旅人として、あっちゃいけないかもしれないけれど、ぼくはその手の「怖い話」なんかが大嫌いだ。
心理学の「しろくまさん」の実験のように、考えまいと思えば思うほど、気になってしまう。
夏は季節としては大好きだが、いったいどうしてか、夏になると、怪談がささやかれるようになるから、非常に困る。
ぼくは、幽霊なんて信じていない。そう、信じている。

そして、宗太郎峠。
そう、この話を聞いたのは、国分のキャンプ場で泊まった時だった。
先輩のチャリダーの話だ。

あるとき、この峠にある無人駅、「宗太郎」で野宿したチャリダーが居たらしい。
そしたら、明らかに、生ぬるい感じがして、誰か居る感じがしたのだそうだ。
そして、見てみると……
“でた”のである。

怖くて。
この話を聞いた時は、怖くて怖くて、これから自分がそこを通るかと思うと、嫌で仕方なかった。
思い切って、熊本方面に抜けてしまおうと思ったくらいだ。
あまりに心配だったので、昨日泊まらせてもらった和尚さんの家族の方に聞いてみた。
「嘘、ですよね。これって。出ませんよね? 嘘ですね!!?」
そしたら、実際和尚さんは見たことが無いらしいのだが、事実らしいのだ。
“出た”ことが事実というより、“出る”と噂になったのが事実らしいのだ。
かなりブレイクして、野次馬が集まり、それ目的の屋台なんて出たりして、普段は人気の無い駅が逆に賑わってしまったという、あまり笑えない話がそこにあった。
―――やばい。 事実だった。

明日はなんとしても、日が明るいうちに峠を抜けよう。
間違っても雨なんて降らないでくれよ…。大丈夫、今日は快晴だった!
きっと、明日も…。

雨だった。
しとしと、と。
一番たちの悪い、一番“あれ”が出るには絶好のシチュエーションの雨。
ああっ!!
嫌だ。怖い〜〜(泣)
でも、行くしかなくて(次の日も雨の予報だったし)、勇気を出して、ぼくは宗太郎峠に向かった。

道の駅を過ぎた頃から、車がぐっと減る。
ここから新しく出来た国道326に多くの車が抜けるためだ。
ぼくも抜けたかったが、長いトンネルが多かったのでチャリダー的にはいけてない。
雨が激しくなる。
はっきりと、一粒一粒が体に当たっている感触がリアルに伝わってきた。
雨音がすごくうるさい。頭がぼおっとして、自分がどこにいるのか、わからなくなる。

この道に、宗太郎峠以外に、もう一つ不気味な場所がある。
それは、100メートルも無い、小さな隧道だ。
別になんてことも無い、どこにでもあって、その存在にすら気付かないうちに過ぎ去ってしまうような、そんな隧道。
しかし、この隧道で、少し前、謎の交通事故が連続して起きたらしい。
一ヶ月の間に、3件ぐらいあったっていうから、かなり偶然にしては出来すぎている。
その、隧道。
ぐっしょり雨に濡れて、山際に張り付くようにそこにあった。
嫌な話を聞いている分、余計に意識してしまう。
周りはさっきから車が通らない。
ひとりで、ここを通り過ぎるしかない。例え何が起こっても…。

いよいよ森が深くなっていく。
雨は、小降りになりしとしととふりつづけた。
さっき、県道43別れがあったから、宗太郎はもうすぐのはずなのに、なかなか着かない。
なんとか、県境まできた。
ここから下りのはずだ。一気に宗太郎なんて通り過ぎてしまおう。
もう、充分すぎるほど、嫌悪感は味わった。

しかし、世の中、そううまくはいかない。
県境を越えても、下りにはならなかった。
だらだらと、下らない道は続いていく。
そして、今にもふかい森に飲み込まれてなくなってしまいそうなさび着いた看板が、宗太郎駅が近い事をそっと知らせる。

辺りには、誰もいない。
意識はしないけれど、それでも、微妙な焦燥感を与え続ける、ゆるゆるのアップ。
なんども渡る、鉄骨で出来た同じような古い小さな橋。
まだ、9時だというのに、もう、あたりはひぐらしが、カナカナカナカナと鳴いている。
あたりは、じっとりとした、蒸し暑さに包まれ、雨はしとしとと、世界をぬらし続ける。
そして、ところどころにあるのは、黄色い街灯。
それは、ちょっとまえの、昭和を感じさせるような、そんな味気の無いつくりで、その下に、誰か立っているんじゃないかって、たとえそうだとしても、全く不思議ではない、そんな雰囲気に、辺りは包まれていて。
そして、濡れた髪からしたたりおちる水滴が、首筋をなでていく、その感触。

それはもう、ブキミ、だった。

そして、そんな雰囲気につつまれて、夢うつつになっていると、見えてきたのは数件の集落と、その向こうに見える暗く古い無人駅舎とモルタルかコンクリの汚れたホーム。
宗太郎駅だ!
遂に、来てしまった、と、思うやいなや、子供のように、速攻で逃げ出していた。
今日の自転車の平均時速が20キロを越えているのはここらへんのスピードアップの貢献による所が大きい。
結局、幽霊はでなかった。
やっぱりでなかった。
ほんとうに、よかった。
だから、いえる。
信じていない。幽霊なんて。
それでも。
それでも、やっぱ、怖いって!! このシチュエーションは(泣)

 


□宗太郎前の県境


今日のメインの話はこんな感じだが、実際は、むしろ、この宗太郎を抜けてからが長かった。
道の駅、弥生まで抜けてしまおうと思ったのだが、なかなか抜けられない。
とくに、宗太郎から、大原の交差点までは、本当にうっそうとした深い山を越えていくことになり、相当にきつい。
ぼくも、雨に降られ、水はとっくの前に尽き、しかも、怖かったので、とにかく長く感じられた。
10号線は、なかなか深い。

道の駅弥生では、精神的疲れもあってか、ゆっくりとした。
ここで応援してくれたおじさんが、午後から雨はやむ、とおっしゃっていたので、それを信じて、まったりしていると、やがて雨はやんで、晴れ間すら見え始めた。
ここぞとばかりに、出走!
中の谷峠を越え、野津にでて、犬飼までは、下りだったことも手伝って、すぐにいけた。
さっきの宗太郎でてこずっていたのが嘘のようだ。
そんでもって、そこからは、ものすごく走りやすい道路が大分まで続いていて、しかも、そこからも良い道が続いていた。
途中、夕立に降られて、雨宿りをしたほかは、特にハプニングに見舞われることもなく、無事、ユースに着いた。
ユースのペアレントさんは、この春に泊まったぼくを覚えていてくれて、いろいろ親切にしてくださった。
(電話の声で初めは女だと思ったらしく、女部屋の宿泊カードが用意されていたが、いまさら気にはしない。)
ユースの相部屋の人が、ベルギー人と、フランス人の方で、英語でいろいろ話した。
特に、フランス人の方は、日本語を学んでいるらしく、ぼくが英語で、あちらは日本語で話してなんか面白かった。
夜には、別府ユースには、温泉があって、そこでゆっくりと今日冷え切った体を心から温めなおした。
さて、明日中にもしかしたら、九州を抜けられるかもしれない。
いよいよ、テンションはあがってきた!


□別府の海


  


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